大判例

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熊本地方裁判所 昭和25年(行)18号 判決

原告 森田穰

被告 熊本県知事

一、主  文

被告が熊本県天草郡富津村今富字夕浦三千三百五十四番田二反二十三歩並びに同所三千三百十三番田三畝四歩につき昭和二十四年七月二日為した買収処分が無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、その請求の原因として、主文掲記の田地二筆は原告の所有で昭和二十年十一月二十三日の所謂基準日当時は訴外森田サヨノが小作していた農地であつたが、其の後昭和二十四年二月十七日同人は富津村農地委員会に対し遡及買収の申請を為し右申請により同委員会の樹立した買収計画に基いて同年七月二日被告は原告に対し右二筆の田地を買収する処分を為した。しかしながら原告はもともと郷里の肩書村内に田畑三町歩余の小作地を所有していたもので昭和十七年朝鮮人造石油会社に就職渡鮮し、家族も熊本市内に居住させては居たが、偶々同会社よりの出張先横浜市で終戦を迎えたので昭和二十年十月十七日帰農を決意して帰村し、母ノエ妹恵美子等も引続き帰村したので昭和二十一年五月小作人中里七平から同人の承諾を得て小作地三反七畝十八歩の返還を受け其の内一反六歩を訴外森田サヨノに見返り地として小作させることとし双方合意の上同人より本件二筆の田合計二反三畝二十七歩の返還を受けて農業に従事し来つたものであつて其の後同年六月弟範雄が復員して農業に専従することとなり耕作面積が過少となつたため後事を同人等の家族に托し同二十二年二月以降職を得て大阪に赴き後東京野口研究所に転じて今日に至つているが昭和二十年十一月二十三日所謂基準日当時は在村の地主であつた。而して熊本県天草郡においては在村地主は自小作地合せて一町六反を超えない限度で六反歩までの小作地保有が許されたものであるところ、今次の農地改革により前記三町歩余の原告所有農地は逐次買収せられ本件買収によりその自作する田二反七畝十二歩畑一反三畝十七歩合計四反二十九歩を残すのみとなつたのであるが、これに本件二筆の田地二反三畝二十七歩を加えても僅かに右六反歩を超えるに過ぎないことは明かである尤も原告は右の外、蜜柑栽培地一反七畝歩余を所有しているが右は公簿上の地目も山林であつて被告の主張する如く之を農地に算入し得ないことは勿論である。而して基準日当時小作地であつた農地がその後小作人の返地により原告の自作地になつた場合でも前記六反の限度内でその保有が許されることは当然であるから本件買収処分はその要件を誤り原告の在村地主としての農地保有許容限度を侵した違法無効のものである。かりに然らずとしても森田サヨノは前記の如く原告より他の農地を見返の小作地として受取り合意の上これと交換して本件田地二筆を返地したものであるから其の後に至り同土地につき遡及買収の申請を為すが如きは信義に反するのみならず、本件土地の買収が為されることにより原告方はその母と弟夫婦との三名で合計四反二十九歩の田畑を耕作するに過ぎぬこととなり妹恵美子が学校教員である外副業による収入もないのに反し、森田サヨノはその長女と二人で田四反三畝五歩畑四反五畝六歩合計八反八畝十一歩を耕作するものであつて家族六名の内長男及二女の二名は給料生活者である外製材精米業者である訴外山田庄吉を内縁の夫としてその補助を受け裕福な生活を営んで居りこれに比較すれば原告等の生活状態は著しく悪くなるのであるから、何れにしても本件土地は遡及買収より除外せらるべきもので右事由を看過して為された本件買収処分は違法無効のものと言わねばならない。

よつて被告の為した前記買収処分が無効であることの確認を求めるため本訴請求に及んだと陳述し、被告の本案前の主張に対し本訴は行政事件訴訟特例法第三条の適用により処分行政庁を被告と為し得るから当事者を誤つた違法はないと述べた(立証省略)。

被告訴訟代理人は本案前の申立として本件訴を却下するとの判決を求めその理由として農地買収処分の無効確認を求める訴は所謂抗告訴訟には該当せず民事訴訟の原則により買収処分による法律関係の帰属主体である国を被告とすべきであるから本訴は被告を誤つた不適法のものであると述べ、本案につき、原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として、原告主張事実中被告が原告主張の土地をその主張の経過により買収したこと、原告が昭和二十年十一月二十三日の基準日当時在村し其の後転出して現在東京に居住していること、熊本県天草郡における在村地主の小作地保有限度が原告主張の通りであることはこれを認めるがその余の事実は否認する。原告は基準日当時其の主張の如く田畑合計三町余の小作地を保有していたので本件買収処分は基準日における保有制限超過小作地に対する所謂遡及買収として為したもので原告の現在の所有農地は略々保有限度に等しい田二反三畝十二歩畑三反六畝十六歩合計五反九畝二十七歩で右の内には原告主張の蜜柑栽培地一反七畝歩余が含まれてはいるが蜜柑畑は所謂農地に該当するものであるから本件買収は保有限度の六反歩を割ること三歩に過ぎないので斯る僅少の不足は保有限度の侵害として本件買収処分を無効ならしめる程の違法性を有するものとは言い得ないのみならず原告は農地ではないが他に耕作可能の荒蕪地五筆を所有し強いて本件の二筆を取戻す必要がないのであるからかたがた原告の本訴請求は失当であると述べた(立証省略)。

三、理  由

被告は本案前の抗弁として本件訴訟は農地買収処分の無効確認を求める訴であるからその法律効果の帰属主体である国を被告とすべきであつて被告を誤つた不適法の訴であると主張するが、行政処分の無効確認を求める訴は処分の瑕疵を主張してその効力を争う点において行政事件訴訟特例法第二条の訴と実質を同じくし同法第三条の準用により処分をした行政庁に被告としての適格を認むることができるので処分庁として熊本県知事を被告とする本訴は其の意味に於て不適法な点はないので右主張は理由がない。

よつて以下本案につき検討する。被告が昭和二十四年七月二日原告に対し熊本県天草郡富津村今富字夕浦三千三百五十四番田二反二十三歩同所三千三百十三番田三畝四歩につき昭和二十年十一月二十三日の基準日当時同地の小作人であつた訴外森田サヨノの買収申請に基き買収処分を為した事実及び右基準日当時原告が在村していた事実は当事者間に争がない。

原告は右処分は法の認めた小作地の保有限度を侵害した違法があると主張するのに対し被告は之を争うので按ずるに、熊本県天草郡においては在村地主の小作地保有限度として自作地と合せて一町六反を超えない範囲で六反歩迄の保有が許されるものであるところ原告が基準日当時所有していた三町余の農地が右基準日当時全部小作地であつたことは原告の自認するところであるから其の後右小作地中若干の返還を受けて自作していたとしても、遡及買収の申請が為された以上原告の保有し得べき限度は、其の後の事情による自作地を合せ六反歩を超ゆることを得ないことは明かである。そこで本件買収当時の原告の所有農地の面積につき審究する。原告は本件二反三畝二十七歩の田地の外本件買収当時原告の所有に属した農地は田畑合計四反二十九歩と主張するのに対し被告は田畑合計五反九畝二十七歩であつたと抗争するのであるが両者の間に右の如き面積の差異を生ずる主たる理由は原告が右所有農地の外であると為す蜜柑栽培地約一反七畝を被告は農地であると主張して之を右五反九畝二十七歩中に計上しているからであつて、蜜柑栽培地を農地と看做すべきや否やは公簿上の地目に拘らず其の実態を調査して決定すべきことは勿論であるが被告は之の点に関し右一反七畝を農地と看做した理由を主張せず又立証もしないので本件に於ては之を農地より除外せざるを得ない。ところで右蜜柑栽培地を除いた原告の所有農地は証人森田範雄の証言によれば、田二反七畝十二歩畑一反三畝十七歩合計四反二十九歩の自作地の外に小作地一畝十歩総計四反二畝九歩であることを認めることができるので本件の買収により六反の保有制限面積を一反七畝二十一歩侵害していることは計算上明かである、被告提出の証拠によつても右認定を覆すことはできない、而して右結果に陥つた所以のものは被告並に富津村農地委員会において事実の調査を怠り本件は不在地主の小作地として当然買収できるものとの見解のもとに前記要件につき特に検討を加えなかつたことに起因するものと判断せられるのであつて、其の間の事情は、被告が本件買収は不在地主の小作地に対するものとして為された旨の当初の主張を撤回し、保有制限超過小作地に対するものとして為された遡及買収である旨の主張に訂正したのが本訴の提起後約三年以上を経た最終回の口頭弁論期日においてであつた事実並びに当時の村農地委員会長であつた証人山下千代喜の証言に徴しこれを窺うことができる。果して然らば本件買収処分は前叙の如く原告の小作地保有限度を侵害した違法無効のものと言うべく唯本件二筆の内三千三百十三番田三畝四歩に対する部分のみについて見れば計数上右保有限度に対する侵害とならないが斯る場合、本件二筆のうち、其の何れを買収するかは、もとより被告の決定すべきところであつて本件買収処分を右制限面積を侵害しない範囲に於て有効とすることは裁判所が自ら買収計画を樹立するに等しく、其の為し得ざることは勿論であつて本件に於てはむしろ違法原因は二筆に共通であるというべきであるからその無効確認を求める原告の本訴請求は爾余の判断を俟つまでもなく正当としてこれを認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 浦野憲雄 安仁屋賢精 下門祥人)

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